第一節 岩手山の高山植物
岩手山は標高二、〇四〇・五mを有する火山で噴火口内外及び外壁の新旧の状態により植物の変移を観察することが出来、高山植物の群落として甚だ興味が深い。
岩手山の植物状況を大別すれば、下記の通り三つになる。
第一は山麓の原野及び山地で、ここにはキミカゲ草、ウラジロレンゲツツジ、べニバナウツギ、イヌツゲ、カシリ、ミヤマヤナギ、シナノキ、イブキボウフウ、アカマツ、ウツボグサ等の普通の原野、山地の種類とちがわない。
第二は森林帯であって、山麓より三合目表口、あるいは六・七合目の北側にも及ぶ一帯をいうのである。ここにはブナ、ミズナラ、ダケカンバ、オオカメノキ、アズキナシ、アオモリトドマツ、コメツガ等が喬木森林となっている。
第三はそれより頂上までで高山帯ともいうべき高山性の植物が出てくる。ハクサンチドリ、ヨシバシオガマの紫色の可憐な花、またエゾツツジの紫紅色の花、チングルマの純白の花、その他ミヤマキンポウゲ、タカネトンボ、ホロムイソウ等の群落、また岩壁にはチシマゼキショウ、ムシトリスミレが咲き八合目から海抜一、九〇〇mの九合目、即ち不動平一面はハイマツ生い茂る高原である。このハイマツの林の所々に草原がある。この草原にはべニバナイチゴ、ヨシバシオガマ、ハクサンチドリ、アオヤギソウ、ガンコウラン、イワカガミ、イワウメ、ムシトリスミレ、ショウジョウバカマ、シロバナトウナソウ、マルバシモツケ、オオバキスミレ、ムツノガリヤス、ヒトツバヨモギ、ウコンウツギ、チングルマ、アオノツガザクラ、ネバリノギオン等生育して初夏のころ御花畑の美観を呈する。
不動平より頂上に至る間は新しい噴火のため全面火山礫で被われ、わずかに草木の群が点生しているのみである。けれどもこの火山礫の間にはコマクサ、イワブクロ、イワテハタザオ、イワギキョウ等が豊富に群落を形成し登山者を慰めている。高山植物の生態学上から注目すべきことと思われる。
頂上噴火口付近の植物にはイワスゲ、イワテハタザオ、タカネニガナ、ミヤマクロスゲ、ミヤマキンバイ、ミヤマコウゾリナ、コミヤマハソショウズル、イワノガリヤス、イワウメ、コハナヤスリ、チシマゼキショウ、イワテタンポポ、イワブクロ、コマクサ、イワキキョウ、キバナノコマノツメが生えている。岩手山の礫原は将来次第に不動平付近に見える植物群落に移り、遂には草原、または潅木地と交替するようになるであろう。
岩手山の北東の中腹に焼走りといわれる熔岩の噴出がある。約四㎞も山麓まで流出しているのは自然の偉力である。この熔岩上には殆ど高等植物の群落を見ないがシラガゴケが実によく生育している。このシラガゴケの間の腐殖質土化した所にシャクナゲ、イワブクロ、ハイマツ、シラタマノキ等の植物が繁茂している。
また頂上の北西、すなわち西岩手火山旧火口には御苗代湖、お釜湖、八ツ目(まなこ)があり、この周囲一帯はアオモリトドマツ、コメツガの森林をもって被われているが、湖の付近草地には湿地性の植物ハクサンチドリ、ミヤマキンポウゲ、ツガルアザミ、モウセンゴケ、タカネトンボ、ウメバチソウ、コバイケイソウ、ホロムイソウ、タカネスズメノヒエ、エゾホソイが発生している。
第二節 野生食用植物
一 草本類
二 潅木類
三 藤本類
四 喬木類
第三節 本村の天然記念物
春子谷地湿原の周囲は、ハンノキ、トネリコ、ヤチダモ、ミヤマイボタ、ハシドイ、エゾノコリンゴ、ノリウツギ、イヌエンジュ、クロツバラ、カラコギカエデなどで構成される二次林をめぐらし、大部分はハンノキとヨシをうすく生じ、また所々にミズゴケ、ヤマドリゼンマイ、ノリウツギ、イソノキ、シラカワスゲ、ヌマガヤなどよりなる谷地坊主が見られる。この湿原に発生する湿原植物群落の中には次のような植物がみられる。
樹木類
ハンノキ、エゾノコリンゴ、トネリコ、クロツバラ、ノリウツギ、ヤマウルシ、レンゲツツジ、ハイイヌツゲ、イソノキなど。
双子葉草木類
コタヌキモ、ニガナ、アギスミレ、クサレダマ、モウセンゴケ、エゾミソハギ、ミズギク、キセルアザミ、ミズガシワ、ヤナギトラノオ、ヒツジグサ、オオニガナ、ホソバノヨツバムグラ、シロネ、ミズオトギリ、サワギキョウ、エゾリンドウ、ウメバチソウなど。
単子葉草木類
ノハナショウブ、アギナシ、タチギボウシ、フトヒルムシロ、ネジイ、ホソコウガイゼキショウ、アオコウガイゼキショウ、コウガイゼキショウ、バリコウガイゼキショウ、オオイヌノハナヒゲ、コイヌノハナヒゲ、ミカヅキグサ、ホタルイ、シカクイ、ヒメヌマハリイ、シロミノハリイ、シズイ、サギスゲ、アイバソウ、コマツカサススキ、サンカクイ、ヤチカワズスゲ、アゼスゲ、ヤチスゲ、シラカワスゲ、ホロムイクグ、ムジナスゲ、ゴウソ、カサスゲ、ミタケスゲ、サドスゲ、イトナルコスゲ、ニッポンイヌヒゲ、イトイヌノヒゲ、ヒロハノイヌノヒゲ、ヨシ、ヤマアワ、ホソバノシバナ、トキソウ、アサヒラン、ネジバナ、ミズトンボ、カキラン、コバノトンボソウ、ヌマガヤなど。
羊歯類
ヤマドリゼンマイ、ミズドグサなど。
これらの中で特にシロミノハリイ、シラカワスゲ、ホソコウガイゼキショウ、イトナルコスゲ、ホロムイクグ、ホソバノシバナなどは分布上極めて注目すべき植物である。
本湿原は有史以前に奥羽山麓地方に広く存在したと推定される湿原の或る型を代表するものであり、そこに発達した植物群落を知る好個の場所と考えられる。そして本湿原は現在ほとんど人為を加えられることなく自然状態を保持している点もまた貴重な文化財と見ることが出来る。
指定基準、植物の部第六項に該当するものと認められる。