チョウセンアカシジミ=学名コレアナ・ラフアエリスは、その名が示すように、朝鮮半島を原産とするシジミチョウ科に属する小型の蝶であり、開いたときの羽の大きさは、3.5~4cmほどで、色は赤黄色、外縁は黒色である。

餌となる食樹(ショクジュ)はトネリコ、方言ではタモノキ、トウナリ、モエブトなどとも言い、川沿いや湿地に好んで生息する。

チョウセンアカシジミの生息分布は、アムール川流域、ウスリー川南部、中国大陸北東部、朝鮮半島および日本列島の一部で、日本海を取り巻く状況にある。このことは遠い昔、日本列島と大陸が陸続きであったことを物語る貴重な証明の一つとも言える。

日本列島では、新潟、山形、岩手3県の中でも、きわめて限られた地域にのみ確認されているが、昭和28年に岩手県田野畑村で初めて発見されるまで、日本には生息しないものと思われていた。このように、世界的にも本当に限られた地域に生息する珍しい蝶で、幻の蝶とさえ言われている。

岩手県内の生息分布は、沿岸北部の宮古市から久慈市にかけてと、内陸の奥羽山脈麓の滝沢市と雫石町である。

チョウセンアカシジミの写真
画像提供:山形県川西町

滝沢市で生息が確認されているところは”分れ”付近の国道4号線東側で、南に流れる巣子川沿いの雑木林である。この地は食樹のトネリコが植生し、生息に適した条件を備えている。

チョウセンアカシジミの一生は、7月中旬ごろ母蝶が食樹トネリコの根元に近い幹や樹皮に産んだ卵から始まる。卵は9ヶ月後、翌春の4月中~下旬ごろ孵化し幼虫になる。このときの幼虫が一齢幼虫で、以後脱皮するごとに、ニ齢、三齢、四齢の幼虫期を数える。

やがて幼虫は、6月下旬ごろに木から降りて、近くの石や落葉の下などでサナギになる。サナギの多くは、7月上旬ごろに羽化し、成虫となって、交尾、産卵し、およそ2~3週間で寿命を終える。8月には飛びまわる姿を見ることはできなくなり、1世代1年で完了する。
最近各地の生息地で、河川改修や河川端の道路改修などをはじめ、開発工事による食樹トネリコの伐採など、人為的、自然的な影響でチョウセンアカシジミの生息環境の悪化により、生息数の減少が心配されている。

滝沢市の生息についても「滝沢村史」によれば「昭和40年ごろまでは”分れ”付近で全国的にも珍蝶とされているチョウセンアカシジミをたくさん見かけたという」とあり、減少してきたことを読みとれる。

チョウセンアカシジミは、本来、開けた河川や人家の周囲、田畑や牧草地などの周囲にあるトネリコに生息し、”里の蝶”とも言われ、人里で人間と共生できる特性をもっている。また、トネリコの木は成長が速く、風にも強いため、低湿地むきの公園樹や街路樹としても利用できることから、生息地周辺への植樹等いろいろな方途をもって生息環境の保全と確保に努め、チョウセンアカシジミの絶滅を防ぐことが大切である。

生息地

滝沢市巣子

指定年月日

昭和62年6月30日